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札幌高等裁判所 昭和36年(ラ)65号 決定

抗告人 山崎辰三

相手方 小谷一郎

主文

原決定を取消す。

相手方の本件建物収去命令申請を却下する。

本件申立並びに抗告費用は相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

記録によれば相手方から抗告人に対する札幌地方裁判所昭和二九年(ユ)第一〇号家屋収去土地明渡調停事件の執行力ある調停調書正本に基づき原執行裁判所に建物収去命令を申請したので、原審が債務者である抗告本人を審尋の上昭和三六年八月八日、相手方の委任する札幌地方裁判所の執行吏は抗告人の費用をもつて本件建物を遅滞なく収去することができる旨の決定をし右決定は同年八月一〇日当事者双方に送達されたところ、抗告人はこれより先きに右債務名義である調停が無効であることを主張して調停無効確認の訴を提起するのでその本案判決確定するまでの保全処分として右調停調書正本に基づく強制執行を停止する旨の仮処分を申請し、昭和三五年一一月四日札幌地方裁判所の右調停調書の執行力ある正本に基づく家屋収去土地明渡の強制執行は本案判決に至るまでこれを停止する旨の仮処分決定(同庁昭和三五年(ヨ)第三三四号仮処分申請事件)が発せられたので、右仮処分命令に抵触する本件代替執行命令は違法であると主張して、本件即時抗告申立書とともに右仮処分決定正本を原裁判所に提出したものであることが認められ、右仮処分命令はその発布の当時相手方に送達されたことが推認できる。

元来保全処分である仮処分命令をもつて確定判決と同一の効力を有する調停調書正本による強制執行を停止することは許されないものと解すべきであるが、仮処分裁判所の裁判である以上取消されるまではその効力を有するものといわなければならない。従つて右仮処分命令は相手方の本件建物収去土地明渡の強制執行により抗告人の蒙るべき著しい損害を避けるために必要な処分としてなされたものであつて本案判決があつてもその確定に至るまでは当然にその効力を失うものではなく、右仮処分決定には本案判決の確定に至るまでとあるも本案判決の確定に至るまでの趣旨と解すべきものであることは本案訴訟の執行を保全するためになされた保全処分たる性質に徴しみやすい道理であるから、右仮処分決定正本が執行裁判所に提出されたときは民事訴訟法第五五〇条第一号末段に規定された強制執行の停止を命じたる裁判の正本に該当すると解すべきであるから執行裁判所は先きになした執行処分をも取消すべき筋合であるといわねばならない。

従つて既に前記強制執行停止を命ずる仮処分決定正本が本件抗告状と共に原裁判所に、従つて抗告審に提出されたものである以上、先きになされた建物収去命令を取消すべき事由に該当するものというべきであるから、原決定は結局失当で本件抗告は理由がある。

よつて民事訴訟法第四一四条第三八六条第九六条第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 南新一 輪湖公寛 藤野博雄)

抗告代理人小林盛次の抗告の趣旨および理由

抗告の趣旨

原決定を取消す旨の御裁判を求める。

抗告の理由

一、前掲建物収去命令申請事件の債務名義は申請事件の債務名義は申立人小谷一郎、相手方山崎辰三間札幌地方裁判所昭和二九年(ユ)第一〇号家屋収去土地明渡調停事件の執行力ある正本であるところ、右債務名義の調停につき抗告人から札幌地方裁判所に調停無効確認の訴を提起するのでその本案判決確定まで強制執行を停止せられたい旨の申請を為し、仮処分決定(昭和三五年(ヨ)第三三四号)を得、強制執行は停止中であるので、該仮処分が適法に取消されるまでの間は、右仮処分に抵触する本件の如き建物収去命令を発せられることは違法と信ずるので本抗告におよんだ次第である。

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